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解説② 編み物で抗議する、ニット・イン

 米国のイラク侵攻からちょうど5年となる2008年3月19日、おばばたちは再びタイムズ・スクエアに現れた。
 アメリカにはいろいろな抗議の形があり、それらにはよく「イン」が付く。座り込んで抗議するのがシット・イン(sit-in)。死者のように横たわるのがダイ・イン(die-in)。タバコ会社の前で大勢が一斉に倒れて横になる禁煙運動などがそうだ。
 60年代にはラブ・イン(love-in)があったという。ヒッピーたちが開いた愛の集会のことで、彼らは世界には愛が足りないと抗議していたわけだ。
 この日、おばばたちは編み物をした。だからニット・イン(knit-in)。
 その2週間ほど前の3月6日未明、何者かが新兵募集センターに爆発物を投げつけた。おばばたちは編み物をすることで、この爆弾犯にも抗議したのだ。暴力を通してではなく、平和的に異議を唱えること。イラクで負傷した兵士のために靴下を、イラクで死にそうな目に遭っている人々のために毛布を編む。編み物は、爆弾投下の対極にある抗議方法だ。
 5周年という節目だったせいか、編み物をするおばばたちの前には「反・反戦おばば」の市民も現れた。両者はフェンスで分けられ、衝突が起きないよう警官が見守った。反・反戦おばば派の声は大きい。「お前たち反戦おばばは、中数同時テロで3000人の命が失われたことをもう忘れたのか!」「まず勝利だ! その後で平和が来るのだ! 撤退は敗北だ!」
 反戦おばばの側を見れば、彼女らの支持者の中にこそ熱くなって言い返す男性がいるが、おばばたち自身は静かに編み物をするだけ。その穏やかさが印象的だ。
 とは言えここでも、最高齢のメアリー・リュニオンさんは違った。新兵募集センターに一人で向かっていく。3年前と同様、「孫の身代わりになりたいので入隊させろ」と交渉したのだ。しかし、残念ながら今回も却下。報道陣に「これは年齢差別だわよ!」と訴えていた。
 ユーモアの切れ味も最高だ。

編み物は、テロリズムの対極にある抗議方法だ

最高齢のメアリー・リュニオンさんも頑張って編んだ

3年前と同様、「孫の身代わりになりたいので入隊させろ」と新兵募集センターに詰め寄るメアリーさん

入隊させてもらえず「年齢差別だわよ!」と報道陣に訴えた

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