top of page
Rapcover2019_1.jpg
00:00 / 05:39
download.png
Rapcover2019_2.jpg
00:00 / 05:54
download.png

A、B、C、D、E、F、辞書引く毎日、地味な日常。英語のトランスレーション、翻訳と通訳があなたの職業。A、B、C、D、E、F。

30年ほど前の東京、俺は書店でひとりぶらり。大学受験のための勉強、ついにやっと終わったばっかり。使わないと忘れちゃいそう、覚えたばかりの英語が気がかり。紀伊国屋書店の階上、壁に貼られた英詩のくだり。置いてる本は洋書ばっかり、この場所こそがとっかかり。好奇心を持つ、それが大切、謎めく未知の南米小説。和訳のないスペイン語の大作、英語圏の国では既に英訳。例えばGabo、ガルシア・マルケス『El Amor en los Tiempos del Cólera』。英訳されてペリカン・ブックス『Love in the Time of Cholera』。書き込みだらけで捨てられない、古いペーパーバックがそれら。

20年ほど前に出国、仕事を辞めた俺は無職。ニューオーリンズで学ぶ語学、世界の老若男女と通学。英語で学び、英語で生活、モラトリアムな自由を満喫。たしかに英語で広がる世界、彼らは俺を母国に招待。ドイツじゃ皆とレストランで乾杯、最初に出てきた器に液体。不思議なスープだ、ねっとり濃い、スプーンですくって俺は味わい、
英語で伝えるこんな見解。「This soup is delicious」。あれれ、皆さん、奇妙に沈黙、気まずげに一人がおっしゃる。「This is not soup. This is sauce」。え、これソース? つまり調味料? 飲んだりするもんじゃないでしょう。たしかに英語で広がる世界、恥かく機会も大いに拡大。

10年ほど前にはアメリカ、マンハッタンのオフィスに通勤。つまりは俺もニューヨーカー? あのテロからは早くも7年。PTSDってあるのかないのか、自覚はないから、よう分からん。この俺だっていつ死ぬことか、carpe diem、ただでは死なん。そういう態度で出かけたパーティー、素敵なアメリカ女性と遭遇。やさしい瞳がとってもプリティー、そんな女(ひと)がこの俺と付き合う。だけどもやがて行き違う。俺はなじる、彼女の言動。俺の英語もずいぶん向上、相手が傷つく武器に変貌。そんな俺への彼女のセリフ。「You are getting manipulative」。岩をも砕く彼女の優しさ、言われて気づく自分の未熟さ。マニピュラティヴにはもうなるめぇ、それが俺の座右の銘。

そして24時間ほど前、最初の準備は資料の再読。まずは確認、参加者の名前、専門用語を何度も音読。「机を離れてフロアに寝たまえ!」。凝った体が俺に催促。尻をおろし、前屈の構え、指を伸ばせば、つま先に着く。気分はまるで試合前、柔軟体操、ほぐれる筋肉。俺がいるのは松江の実家、これから始まる電話通訳。国際会議に電話で参加、顔は見ずに声だけを聞く。「ホントにお前にやれんのか?」。不安がいつでも牙を剥く。舌は回るか? 時は来たか? 体を起こして息を吐く。

A、B、C、D、E、F、辞書引く毎日、地味な日常。英語のトランスレーション、翻訳と通訳が私の職業。「え〜すご〜い」っておっしゃいますけど、いえいえまだまだ、今でも勉強。

Cover photos: hikaru / "in a karaoke box" version was recorded at 講武のファミマのカラオケボックス with additional rap by Tomoe & Chiyochee / "with a mellow guitar" version was recorded with additional guitar & rap by HE&SHE&Daughter
bottom of page