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ウクレレ弾いて五番街 その1

03年08月20日

 オフィスでの仕事に疲れたり飽きたりすると、ウクレレを持って外出し、五番街やマディソン街を歩き回ります。ここしばらくは、五番街をうろつくことが多いです。42丁目から五番街に出て、セントラル・パークの方向へ北上していくのです。

 なぜ五番街なのか。その理由は簡単です。五番街には眼鏡屋があって、そこにかわいい女性がいて、私はその人の顔を見に行くのです。ここしばらく私が眼鏡を使っている理由も、これで明らかです。口の悪い同僚は「またストーキングですか、細田さん」と言います。でも、好きになったものはしょうがないです。そうだろヤマモー!

 もちろん、本当に悪質なストーカーにはなりたくありません。常識をわきまえ迷惑をかけないよう努めています(世のストーカーの多くがそう思っているようですが)。私は学生時代、かなり好きになった女性がいて、その頃「ストーカー」という言葉は今ほど一般的ではありませんでしたが、当時の行動を思い返すと「あの頃の俺はストーカーだったな」と結論付けざるを得ず、そのたびに恥ずかしさに身悶(もだ)えるのです。

 勢いに任せてなぜか過去を公開してしまいましたが、五番街に出た私は、眼鏡屋に向かい、彼女が接客中でなければ、軽く挨拶したり、軽く世間話をしたりします。雑誌にヤンキース松井の記事を書いた時は、「ニューヨーカーはゴジラをどう思っているか」という項目をわざわざ立て、取材と称して彼女に話を聞いたりもしたのでした(ニューヨークに来てくれて、ありがとう松井!)。

 しかし最近、いいかげん熱が冷めてきました。デートに誘ってもOKしてくれませんし、単なる顔なじみという関係のままだからです。「英語で表現すれば、この状況は No Hope といったところか」「男は引き際が肝心だと言うしな」などと考え、「そろそろ五番街をうろつくのも打ち切りだ」と決断しかけました。

 ところが、予期せぬ事態が発生し、私は五番街から離れられなくなったのです。

 いったい予期せぬ事態とは何でしょう? 眼鏡屋の彼女の突然の心変わり? それとも第2の美女の出現?

 続きは、次のコラムでどうぞ。

ウクレレ弾いて五番街 その2

03年08月21日

 昨日の続きです。眼鏡屋の女性の顔を見るため、私は毎日、五番街をうろつくのでした。しかし彼女はいつもつれない素振り………。「そろそろ五番街も潮時だ」とあきらめかけた時、予期せぬ事態が起きたのです。

 実は五番街に、まったく別の知人ができ、その人物と会うのが習慣になってしまったのでした。ヒスパニックの若い男性で、両親はドミニカ共和国の出身、本人はブロンクス生まれのアメリカ人です。紳士服専門店の宣伝が記された大きな厚紙を、身体の前後に一つずつ吊り下げて、「60%割引」などと書かれたチラシを配っています。

 眼鏡屋の彼女にぎこちなく挨拶した私が、「次の Move はどうあるべきか」などと意味なく英語まじりで考えながらウクレレを弾きつつ歩いていると、彼が話しかけてきたのでした。以後、ほとんど毎日彼に会い(つまりほとんど毎日、眼鏡屋に行き)、「コニー・アイランドの早食い競争で日本人が連覇するのは是か非か」「紳士服専門店の宣伝をして金はどれぐらい稼げるのか」「ウクレレは誰でも弾けるのか」などについて彼と話し合うようになりました。

 朝から夕方まで、ただ五番街に立って、道行く人にチラシを渡す仕事です。私には経験がないので本当のところは分かりませんが、すぐに飽きてしまいそうです。ですから、変わった楽器を持ってやって来る日本人と話すのは、良い気分転換になるのではないでしょうか。私がやって来ると、彼は嬉しそうです。

 先日などはとうとう役割の交換が行われました。私がウクレレを手渡すと、彼は適当にポロポロ弾き始め、可愛い女性通行人たちに即興で歌い始めたのです。

 ♪Hey, beautiful lady.
  I am gonna play it for you.
  I can't stop thinking of you.
  Because you are so beautiful.

 女性の多くは、彼のセレナーデを無視して通り過ぎますが、中には、恥ずかしそうに微笑んで、困ったような嬉しいような表情になる優しい人もいます。もちろん彼は楽しそうです。

 彼から預かったチラシを通行人に配りながら、私も笑い出しました。「さすがはラティーノだ。俺も眼鏡屋の彼女にセレナーデでも捧げようかな」と思うのでした。(細田雅大)

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