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ブリジットを探して

編集部員が国際結婚にチャレンジ!

02年12月

 アメリカまで来たからには国際結婚の一つぐらいはしてみたい……。そう思いつつも、我が身を振り返ってはため息をつくばかりの雑誌編集部・細田。中年期も近づき、国際だろうが国内だろうが結婚自体が無理かも知れない彼に指令が下った。「どんな手段を使ってもいいからマジで国際結婚を目指し、そのプロセスをリポートせよ」

● 毎日やって来る変な客

 「結婚は日本人とじゃないとなあ。言葉の問題があるし」と言う日本男児がよくいる。私は違う。「愛があれば年の差なんて」という言葉があるが、これは年齢ばかりでなく、言語、国籍、人種、収入、容貌についても当てはまるはずだ!

 と、なぜか力説してしまったが、特集企画で真剣に国際結婚を目指すことになった時、私は嬉しかった。オフィス近くのレコード店HMVで働く黒人女性に一目惚れし、客を装って日々通っていたのだが、話し掛けるきっかけがつかめなかったのだ。というか単に臆病なだけだが、雑誌の企画であれば、仕事にかこつけて話しかけられるかもしれない。

 と思っていたものの、やっぱりダメだった。オフィスを出た直後は、「よし。今日こそ!」と元気がいいが、レコード店に近づけば近づくほど、「ダメだ。絶対に話しかけられない」と思ってしまう。

 結局、「How are you?」「Fine, thank you」ぐらいのあいさつはできるようになったが、それっきり。バーゲン品の特安DVDがオフィスにたまっていくだけで、何の進展もない。いや、むしろ状況は悪化し始めた。ほかの店員も私の出現頻度の異常な高さに気づき、「なんか変な怪しい客」として認識し始めたのだ(思い過ごしならいいのだが……)。

●お見合いカフェへ出動

 「悪いけど面白い記事は書けそうにないよ」と、本特集の担当であるヤマモーに伝えた。するとヤマモーは、「お見合いカフェ」というものがあるので、そこへ行ってみようと言う。

 お金を払って登録すれば、カフェ内で閲覧できるファイルに自分の情報(年齢や趣味、恋愛対象の好みなど)を掲載することができ、その情報を見たほかの客から問い合わせがあれば、カフェ側がデートをセッティングしてくれるという。

 「ファイルがいっぱいあって凄いらしいですよ、細田さん」と言うヤマモー。「ドリップ・カフェ」という名前だという。「僕も行きますから」

 私は、あまり気乗りしないままヤマモーについて行った。しかしそこで、ミューズ(詩歌・音楽をつかさどる女神)と遭遇することになったのだ。

 時はサンクス・ギビングデーの前夜。一見ふつうのカフェと変わらないが、確かにファイルが棚にたくさん詰め込まれている。ヤマモーと二人でビールを飲みながら、ファイルを見ていった。でも、すぐ飽きた。だって、読みにくい字で自己紹介が書かれているだけだもの。それよりは、やって来る客を観察する方が面白い。どうせ日本語が分かる奴はいないだろうと考え、平気で大声で話す。

 「お! 今入ってきた金髪の娘(こ)はかわいい。タイプなんじゃないの?」と私。

 「うーん。ちょっと胸がなあ」とヤマモー。

 「じゃ、あの一番端っこのは?」

 「えー。太いですよー」

 「ふーん。俺はOKだけどね」

 などと欲望丸出しで話しているうち、となりのソファで親密にしていたゲイ・カップルが席を立ち、二人の白人女性が代わりにやって来た。

 そのうちの一人を見た時、心臓が止まった。寒くもないのに身体が震え出した。

●ミューズに突き動かされて

 「となりの二人、すごく奇麗だよ」と私はヤマモーに言った。私は彼女に話しかけたいと思った。何とかしたい。何か良い手はないか。でも、焦るばかりで何も考えが浮かばない。トイレに立ってみる。ちょっと不自然に周りをうろうろしてみる。そのたびに彼女を盗み見る。黒いショートヘアー。小さな顔。宝石のような目。

 私は、ヤマモーからペンを借りると、たまたまカバンに入っていた会社のロゴ入り封筒を取り出した(何か書けるものは、それしかなかったのだ)。ミューズが現れ、私を突き動かしていた。

 二人が帰り支度を始めた。文法の誤りやつづりの間違いはないか慌てて確認した。振り向いて彼女を見た。盗み見るのではなく、じっと見つめた。詩を書き終えたばかりの興奮が、私を助けてくれた。

 「This is for you」

 私の差し出した封筒を手に取って、彼女は詩を読み始めた。私は彼女の表情を追った。怪訝(けげん)な表情。硬い表情。心臓が凍りつきかけた時、ミューズが微笑んだ。蝶のような笑顔。

 「Thank you. What's your name?」

 「Masa」

 「Bridget」

 私たちは握手をした。

 「My English is not so good. I wish you could understand my Japanese. But, It's not a joke, It's true. it's my present for you」

 そして、ブリジットを探す私の毎日が始まった。(細田雅大)


At the Drip Cafe

 The only sure thing is, ancient Japanese scholars said, that there is no sure things in this world.
 Or, it's not scholars, but me, that thinks so.
 However, now that I am in this Drip Cafe, I am sure that there is at least one sure thing. You are beautiful.

ドリップ・カフェにて

 「唯一確かなのは」大昔の日本の学者が言った。「この世に確かなことは何もない、ということ」
 いや、そう考えたのは、学者などではなくて私だったか。
 でも、このドリップ・カフェで、少なくとも一つ確かなことがあると確信できた。それは、貴女が美しい、ということ。

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