
夢が見たくてたまらない
25年11月2日、島根県松江市での『フォーチュンクッキー』上映会が終わりました。
来場者にお渡しするクッキーに封入するメッセージの書き手の一人として、主催者であるSさんとMさんを手伝った私は、午後7時からの第3回目の上映を観ました。
上映が終わると、Sさんが来場者に挨拶されたのですが、そこでいきなり、客席にいる私にコメントを求められたので、驚きました。
実は1週間前、上映準備の最終チェックを兼ねた内々の試写会があったのです。そこで初めてこの映画を観た私は、Sさんに、映画の字幕について語っていたのでした。
Sさんはその件が気になっていたようで、客席にいる私を指名すると、「あの字幕の話を、もういちどしてほしい」と言われるのです。
以下は、その指示を受けて私が語った内容を書き起こしたものです。
第3回目の上映をご一緒したお客さんにだけ私がこの話をした形になっているのは、不公平ではないかと思われるため、第1・2回目のお客さんにも読んでいただけるよう、書いてみました。
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主人公のドニヤが、自分の電話番号が記されたメッセージを、フォーチュンクッキーに忍ばせます。
それは「Desperate for a Dream」というメッセージです。これが日本語に訳されて「どうしようもなく、幸せになりたい」という字幕がついていたと思います。
ちなみにこのメッセージは、映画の本編だけでなく、予告編にも現れます。つまり、この映画のストーリーにとって重要なメッセージのようなのです。
「Desperate for 〜」というのは「〜が欲しくてたまらない」という意味になります。
私は、このメッセージが「どうしようもなく、幸せになりたい」と訳されていることに違和感を覚えました。
ドニヤは、精神科医に、自分の望みを語ります。彼女は、夜、眠れないので睡眠薬を出してほしいのです。
そのうち精神科医に「悪夢は見るか?」と尋ねられることにもなります。しかしドニヤはその問いには直接答えません。
彼女は、ただ眠りたいだけだ、と繰り返すのです。
こうしたストーリーの流れの中で、ドニヤは「Desperate for a Dream」というメッセージを書きます。
そのため、ここにある「Dream」は、観客の解釈に開かれた多様な意味をもつことになります。
夜、眠ることのできないドニヤは、しっかりと眠って、悪夢(nightmare)ではない、良い夢を見たいのかもしれません。その気持ちが「Desperate for a Dream」というメッセージに現れている、と解釈することができます。
あるいは、この「Dream」は、睡眠時に見る夢ではないのかもしれません。
アフガニスタンを逃れてきたドニヤが、苦しい過去や祖国への思いを持ちながらも、アメリカという新しい土地で、何とか見つけ出したいと願う夢なのかもしれません。
アメリカには「American dream」という有名な言葉があります。
ドニヤの「Dream」は、この「American dream」とも響き合っているのかもしれません。
そのように考えると、この「Dream」は「幸せ」と訳すべきではないと私には思われるのです。
「Desperate for a Dream」は、例えば「夢が見たくてたまらない」とでも訳したほうが良いのではないかと思うのです。

25年11月2日
松江にて上映

入場者に、松江オリジナルのフォーチュンクッキーをプレゼント
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日時:2025年11月2日(日)11:00、14:00、19:00の3回上映
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会場:BIOTOUP 3A(島根県松江市天神町17-1)
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