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釣れたのは魚だけでなく……

06年12月03日

 いつもは週末や祝日に釣りに行く私。しかし先週の金曜日は、たまりにたまった有給休暇を消化するため、休みを取って釣りに行きました。出かけたのはロッカウェイ海岸。地下鉄のAトレインに乗って南下し、ブルックリンを通り過ぎれば、そのうち到着するニューヨーク市のはずれです。けっこう寂しい場所です。

ニューヨーク市のはずれにあるロッカウェイ海岸

 「平日なので釣り人はそんなにいないだろう」と思っていましたが、予想以上にいました。みんな、仕事は何をしているのでしょう? 下の写真は、そのうちの1人、おそらく仕事はもう引退した黒人のおじさんです。

砂浜から竿を出していた黒人のおじさんです

 このおじさんら他の釣り人は、貝のむき身か何かをエサにし、砂浜から竿を出して釣っています。しかし私は、砂浜ではなく、岩でできた突堤(Jetty)の先端まで、つい行ってしまうのです。その分、遠くまでルアー(疑似餌)が届くので、よく釣れる気がするからです(そういう気がするだけで、実際の釣果は、砂浜からとそんなに変わりません)。

これがJetty(突堤)です。滑りやすいので要注意

 Jettyの先端で釣り始めて、わずか3投目。美しい魚体のストライプド・バス(ストライパー)が釣れました

 「今日は大漁に違いない」と嬉しく思いながら、ふと、海沿いの道路に目をやると、車がゆっくりと移動してくるのでした。NY市警のパトカーです。イヤ~な予感がしました。パトカーは私がいるJettyの前で停まりました。警官が2人、中から出てきます。そして私の方へ向かってくるのです。

 「これは完全に俺を狙っていやがるな」と思った私は、釣り道具を手早くまとめ、警官の方へ歩いていきました。警官が手招きしています。私は「オトボケ作戦」を開始しました。

 「おまわりさん、何が起きたんですか? 何か事件ですか?」

 「身分証明書を出しなさい」

 「私は日本から来てH1-Bビザで働いているのですが、なぜ身分証明書が必要なんですか?」

 「Jettyで釣りをするのはイリーガル(違法)なんだよ。それに危険だ。先日も釣り人が溺れ死んだんだ」

 「ああ、それなら知っていますよ。(そして心から驚いたような声で)でも、イリーガルだったんですか?」

 「イリーガルなんだよ」

 「知りませんでした」

 「あそこに標識がある」

 と言って警官の一人は、遠くの標識を指差しました。警官は、私の身分証明書(ニューヨーク市発行のNon Drivers License)を見ながら、どこかに電話して身元を確認し、違反切符に情報を書き込んでいます。ニューヨークに来てもうすぐ6年。これが3回目の違反切符です。最初は地下鉄駅構内でのウクレレ演奏、2回目は地下鉄駅構内での写真撮影、そして今回は海岸での釣り。

 「罰金として35ドル払うか、もし異議があれば、指定の期日に裁判所へ出廷して、裁判官に話しなさい」

 罰金を払う気のない私は、裁判所へ行くことにしました。そして、「自分は在米日本人向けの雑誌に書いている記者である」と明らかにし、「今回の事件は面白いから記事にするかもしれない。だから写真を撮らせて欲しい」と頼みました。警官だけが写っている写真では面白くないので、もう一人の警官に頼み、私が切符を切られているところを撮ってもらいました。

切符を切られる私です

 この写真を撮ってくれた警官は、私が日本語の雑誌で働いていることを知ると、「可愛い日本人女性を紹介してくれないかな」と言い出しました。私は「誰が紹介するもんか。俺が紹介して欲しいくらいだ」と思いましたが口には出さず、「ああ、いいですよ」と答え、そして、「そういえば、ここロッカウェイ海岸は、ブルックリンの一部のように思えるけれど、実はクイーンズの一部なんですよね。クイーンズといえば、今、大変なことになっていますね。警官が50発撃ったんですよね」と付け加えました。

 先日、クイーンズのジャマイカで、無実の黒人男性が警官から50発も撃ち込まれて死ぬという事件が起き、大問題になっていました。私がこの事件のことに触れると、2人は、少し暗い表情になりました。それでも、最後に2人一緒の写真を撮ると、こんなに素敵な笑顔を見せてくれました(笑)。

私を捕まえた警官2人です

 警官が違反切符を書いている間、観察に余念のない私は、2人の警官の胸バッジに名前が書かれているのに気づきました。しかし、メモを取る必要があるとは思わなかったので、ペンを持ってきていません。そこで私は、警官の名前をまずは暗記しました。

 違反切符が手渡され、「35ドル払うか、あるいは、裁判所へ行って戦うように」とあらためて言われたので私は、「別に戦う気はないですが、面白い経験になるので、裁判所へ行って話してきますよ」と答えました。そして警官は、パトカーの方に戻っていきました。

 さっそく私は、警官の名前を砂浜に書き記し、メモ代わりにそれを撮影しました。

私を捕まえたのはRappという警官とTaudajiという警官でした

  しばらくしてから、近くで釣りをしていたあの黒人のおじさんと少し話しました。

 「釣れてますか?」

 「うんにゃ逃げられた」

 「僕は釣れましたよ」

 「ほほう。いい型じゃないか。ところで、罰金はいくら取られるのかね?」

 「35ドルですって」

 「馬鹿馬鹿しいのぉ」

 「でも僕は払いませんよ。裁判所へ行ってきます。では、グッドラック!」

 「おお、ありがとう!」

 そして移動しながら釣り続け(Jettyではなく砂浜から)、さらに2匹を釣りました。そのうちの1匹は小さすぎたので逃がしましたが、最後の1匹はけっこう大きくて50cm以上ありました。ナイフを使ってすぐに絞め、血抜きをしました。内蔵やウロコも、現場で処理してしまいます。家に帰ってからこの作業をすると、台所中にウロコが飛び散ってしまうのです。1匹の胃袋の中からは、小さいカニがたくさん出てきました。もう1匹の方からは、サンド・クラブという名の、変わった形をしたカニの仲間が出てきました。

胃袋から出てきたサンド・クラブです。日本では見たことがない気がします

 この日は、知人宅でパーティーが行われるのでした。私はこの大きなストライプド・バスを持ち込み、お刺身にしたり、鍋に入れたり、そしてフライパンで焼いたりして、皆でいただきました。市当局はニューヨーク近郊で穫れる魚について、摂食規制を定めています。水銀やPCBで汚染されている可能性があるからです。ロッカウェイ海岸で釣れた魚は「1週間に1回なら」食べてもOKとのこと。魚を釣った(I caught fish)だけでなく、警官に釣られもした(Police caught me)と話し、皆で笑いながら、美味しくいただきました。(細田雅大)

ついに裁判所へ

07年02月06日

 今日、クイーンズの裁判所まで行ってきました。

 昨年11月末、有給休暇を取って釣りに出かけた私は、2人の警官から違反チケットを切られたのです。ニューヨーク市のはしっこ、ロッカウェイ海岸でした。私は岩の突堤(Jetty)で釣っていました。しかしそこは、安全上の理由から、釣りが禁止になっている場所だったのです。

 警官は「罰金を払えば済む」と言いました。しかし私は、裁判所へ行って裁判官と話し、自分の無実を証明したいと考えました。なぜなら、私がいた突堤のどこにも「立ち入るべからず」「釣り禁止」といった標識はなかったのです。しかし、警官が切ったチケットには、私の罪状として「標識への不服従」が挙げられていました。

 標識は、あるにはあったのです。突堤から離れた場所にありました。しかしその標識には、「突堤に立ち入るべからず」「突堤で釣り禁止」とは書かれておらず、「許された場所以外での釣り禁止」とだけあるのです。これでは、いったいどこが「許された場所(designated areas)」なのか分かりません。

(1) 突堤そのものには「釣り禁止」の標識がないこと。
(2) 標識の指示だけでは、どこで釣りをしてよいか分からないこと。

 私は、裁判官の前でこの2点を指摘して、無罪を勝ち取るつもりでした。(1)と(2)を証明するカラー写真も用意して、裁判所に乗り込んだのです。

 裁判所は、クイーンズのKew Gardens-Union Turnpike駅の近くにあります。実は、ここに来るのは2回目です。前回は、2人の同僚の裁判に立ち会ったのでした(中枢同時テロの2カ月後、クイーンズに旅客機が墜落した事件をテロリストの仕業と考えた2人は、警察の立ち入り禁止線を越えて墜落現場に潜入し、テロリストと間違えて逮捕されたのです)。

 さて、この極寒の中、私のほか数名の違反者たちは、外でしばらく待たされました。私のほかにも10名ほどいます。「SUMMON PART ENTRANCE」という標識のある出入り口の前でした。「SUMMON」というのは「法廷召喚状」のこと。つまり私が切られた違反チケットが、それに当たります。「PART」が何を意味するかはよく分かりません。

 私以外の違反者は何をしたのでしょうか。釣りではないでしょう。公共空間での飲酒とかではないかと思います。そして、白人は1人もいませんでした。ヒスパニック系と黒人だけです。アジア人はどうやら私だけ。ネクタイをしめているのも私だけ。

 中に入ると、黄色い小さな紙にサインさせられました。その紙には、なんだか法律の専門用語が印刷されています。「Consent to Adjudication before a Judicial Hearing Officer(JHO)」。この紙は、裁判官(criminal court judge)の代わりに、JHOという肩書きの役人に事件を処理してもらうことに同意するための用紙なのでした。

 私は小さな裁判室に入り、傍聴席で待ちました。「IN GOD WE TRUST」(我ら神を信ず)というモットーが正面の白壁を大きく飾り、その下では、白人のおじいさんが裁判官席に座っています。この人がJHOという役人なのでしょう。彼の周囲には、女性警官がいたり、英語が分からない被告のためのスペイン語通訳がいたり、弁護士がいたり、筆記者がいたりします。

 寒い中、けっこう待たされていたせいもあり、私は闘魂を燃え立たせていました。JHOという役人に写真を見せ、無実を主張し、警察の横暴を訴え、市民運動家として名を上げ、まずはニューヨーク市議会議員、その後はシュワを倒してカリフォルニア州知事、ゆくゆくはアメリカ大統領となって世界平和を実現し、ペネロペ・クルスと結婚しようと考えていたのです。

 名前が呼ばれました。低い柵で区切られた傍聴席を離れ、裁判官席のある部分へと進んだ私は、白人のおじいさんに面と向かいました。さて、まずは何と言ってやろうか。私が考えていると、おじいさんは「Guilty? or Not Guilty?」と尋ねました。

 「I am not sure」と私は答えました。禁止区域で釣りをしていたことは悪かったと思います。しかし私は、そこが禁止区域だとは知らなかったのです。そして、私が知らなかったのは、当局が十分に禁止区域について告知していなかったせいでもあるのです。だから私は本心を言いました。自分が悪いのかどうか、よく分かりませんと。

 白人のおじいさんは、私の反応に少し驚いた様子です。私の前にここに立った誰もが「Guilty」と言っていました。私みたいなのは珍しいのだと思います。おじいさんは言いました。「もし君が Not Guilty を選べば裁判になる。Guilty を選べば罰金だけで済む。どちらにするかね?」

 私は悩みました。Not Guilty を選んで裁判沙汰にしたい、というのが本心。裁判なんて、なかなかできない経験ですし、その過程を書けば、面白い記事になるはず。しかし一方で私は、面倒くさい、とも思いました。それに、もしかしたら弁護士料とかで金がかかるかもしれない。時間も取られるだろう。同僚にも迷惑をかけるはずだ。私には、そんな贅沢は許されていないのではないか……。

 私は悩み、「But......If I can.......」などとつぶやいていると、白人のおじいさんはまた「Guilty! or Not Guilty!」と聞くのです。今度は、少し強い口調でした。私はため息をつき、そして、ついに言ったのです。

 「Can I pay by a credit card?」

 そして銀行口座から、罰金35ドルが抜かれることになりました。裁判所を出た私は、心の中で叫んでいました。ニューヨーク市! 今のうちに言っておく! どこかで35ドル分、市の備品を盗んでやるからな! よく覚えておくように!(細田雅大)

 追伸:
 上の経緯を英訳し、アメリカの知人らに読んでもらったところ、「お前はNot Guiltyと言うべきだった」と言う人がいました。その人によると、私が「Not Guilty」と言って裁判に突入しても、おそらく大したことにはならなかったそうです。
 弁護士を雇う必要などなかったかもしれない、のだとか。
裁判自体、もしかしたら、同じ日に別の部屋で行われたかもしれないそうです。
 そして、その知人は、「お前の話を聞く限り、お前が勝つ可能性は高い気がする。裁判所に行く前に、なぜ俺のところに相談に来なかった」と言っています。
 むう……。

 もし次に同じような機会があれば、「Not Guilty」と言ってみよう。

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