『博士の愛した数式』のあらすじ
2003年に発表された『博士の愛した数式』は、数学者が登場する小説です。著者の小川洋子氏は、この小説を書くための準備として、数学者・藤原正彦氏を彼の研究室に訪ねたのでした。
私たちの課題本である新書『世にも美しい数学入門』は、『博士の愛した数式』の好評を受けて、2005年に出版されました。
この新書における小川氏と藤原氏の語らいをよりよく理解するためには、『博士の愛した数式』を読んでおくべきなのかもしれません。
でも、「忙しくて小説を読む時間はない」だとか「前に読んだけど内容を忘れてしまった」という人もいるのではないでしょうか。
そんな人のために、あらすじを書いてみました(細田雅大)。

登場人物
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私 シングルマザーの家政婦。本作の語り手
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ルート 10歳になる私の息子
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博士 老数学者。記憶が80分しか持続しない
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老婦人 博士の義理の姉
あらすじ
1992年、私は、数論専門の元大学教師である博士の家政婦となる。私の雇い主は、博士のことを「義弟」と呼ぶ老婦人である。老婦人の住む母屋を訪ねた私に、老婦人は、博士の特殊な事情を語る。
母屋の離れに住む博士は、17年前に交通事故に遭い、記憶が1975年で止まっている。以後は、80分しか記憶が持続しない。80分ごとに失われていく記憶を補うため、博士の服には、備忘録がわりのたくさんのメモ用紙がクリップで止められている。
私には10歳になる息子がいる。それを知った博士が「子供を独りぼっちにしておくのは許されない」と強く主張したため、息子も、博士の家に通うようになる。息子の頭のてっぺんがルート記号のように平らであるため、博士はその子を「ルート」と呼ぶ。
ルートも博士も、阪神タイガースの大ファンである。しかし博士の記憶は1975年で途切れているため、博士にとって、タイガースのエースは今でも江夏豊だ。私は、江夏の背番号「28」が完全数であることに気づいて、はっとする。
この世で博士が最も愛するのは、素数である。反対に、最も嫌悪するのは、人込みだ。そして博士には、言葉を瞬時に逆さまにできる能力や、誰よりも早く一番星を見つけられる能力があった。そんな少し不思議な博士と、私、ルートとの触れ合いが深まっていく。
私はある日、ほこりだらけの大学ノートを、博士の本棚の奥に発見する。めくっても、めくっても、目に入ってくるのはただ数字と記号とアルファベットばかりの大学ノート。意味は分からないなりに、私は、博士が書き込んだ数式の美しさに心打たれる。
3人は、地元の球場へ出かけ、プロ野球の阪神・広島戦を観戦する。その直後、博士は発熱し、私とルートは離れに泊まり込んで看病する。しかしそれは、家政婦の就業規則への違反であった。博士の回復後、私は家政婦紹介組合から呼び出しを受け、博士の家政婦をクビになる。母屋に住む老婦人(義姉)が、私の無断宿泊を組合に報告したのだ。
博士の生活と切り離されてしまった私は、博士がもう二度と自分たちを思い出すことはないという事実に苦しめられる。私は、素数を見るたびに博士を思い出す。もちろん私には、その数字が素数であるかどうか即座には判断できない。私は、気になる数字をメモ用紙に書いて計算し、素数かどうか確かめることに楽しみを見出す。
「博士の家へ急行せよ」との連絡が、ある日突然、私に入る。駆けつけてみると、離れにルートがいる。博士と遊びたくて離れを訪れたというルートを、母屋の老婦人が見咎(とが)め、私を呼び出したのである。「もう縁が切れたはずなのに、なぜ遊びに来るのですか?」と問い詰める老婦人。かっとなり、「友だちだからじゃありませんか」と応じる私。「いかん。子供をいじめてはいかん」と言って立ち上がり、数式の書かれたメモ用紙を残していく博士。すると、老婦人と私の言い争いは収まっていく。
私は博士の家政婦として復帰する。そして図書館を訪れ、博士がメモ用紙に残した数式の意味を独力で探っていく。その数式は、「フェルマーの最終定理」に関係する「オイラーの公式」であった。私はその公式を「暗闇に光る一筋の流星」であり、「暗黒の洞窟に刻まれた詩の一行」だと感じる。長い時がたっても私は、そのメモ用紙を手離さない。私は考え続ける。なぜあの時、博士はこの公式を書き付けたのだろうか、と。
数学雑誌の懸賞問題に応募した博士が一等賞を獲得する。ルートが11歳の誕生日を迎える。3人は、つつましいけれども波乱に満ちたお祝いのパーティーを開く。そしてその日が、私とルートが博士とともに過ごした最後の夜となる。
数学にまつわる用語集
新書『世にも美しい数学入門』と、その姉妹本『博士の愛した数式』に出てくる数学関連の用語をまとめてみました。
でも、ご安心ください。
こうした用語をいちいち知らなくても、読書を楽しむことはできると思うのです。この用語集は、本を読んでいて、ふと意味を確認したくなった時の参考資料としてお使いください。
あいうえお順に並んでいます(細田雅大)。

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円周率 えんしゅうりつ 円の直径に対する円周の長さの比率。πで表す。3.141519…
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階乗 かいじょう 1 から n までの自然数の積。1 × 2 × 3 × … ×(n-1)× n
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完全数 かんぜんすう 自然数で、その数以外の約数( 1 を含む)の和が、元の数になるような自然数。例えば 6(=1+2+3)、28(=1+2+4+7+14)。完全数は連続した自然数の和で表すこともできる。 6(=1+2+3)、28(=1+2+3+4+5+6+7)
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幾何 きか 「幾何学」の略。図形や空間の性質について研究する数学の一分野
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記数法 きすうほう 数字を用いて数を書き表す方法。0 ~ 9の数字を用い、十進法で表すアラビア記数法が一般的だが、二進法や十六進法などもある
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級数 きゅうすう 数列の各項を順に足し合わせたもの
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虚数 きょすう 2 乗するとマイナスになる数。 i(虚数単位)で表す
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位取り くらいどり 数の位を定めること
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合成数 ごうせいすう 1 より大きい自然数(正の整数)のうち、素数ではない数のこと。1 と自分自身以外の約数を持つ
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公理 こうり その正しさを証明する必要がないほど自明の事柄であり、定理を証明する前提となる
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三角数 さんかくすう 点を、正三角形の形に並べていったときの点の総数のこと。n 番目の三角数は 1 から n までの自然数の和に等しい
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四角数 しかくすう 点を、正方形の形に並べていったときの点の総数のこと。n 番目の四角数は n を 2 乗して得られる
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自然数 しぜんすう 1、2、3、4、5…と続く数の総称。正の整数のこと。0 を含めることもある
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自然対数 しぜんたいすう e(2.71828…)を底とする対数
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実数 じっすう 有理数(分数で表せる数)と無理数(分数で表せない数)を合わせた数全体のこと
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社交数 しゃこうすう 友愛数の発展したもの。ある数 a の自分自身を除いた約数の和が別の数 b になり、数 b の約数の和がさらに別の数 c になり……と連鎖していき、最終的に元の数 a へと戻る、3 つ以上の自然数の組みのこと
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常用対数 じょうようたいすう 10を底とする対数
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数論 すうろん 数の性質や法則を探る学問
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整数 せいすう … −3、−2、−1、0、1、2、3 …のように、マイナスの数、ゼロ、プラスの数がすべて含まれる数の集まり。小数や分数は含まない
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素因数 そいんすう 1 つの整数を、素数ばかりの積の形に書き表したときの各素数。例えば12の素因数は2と3(12=2×2×3)
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素数 そすう 1 と自分自身以外には約数をもたない正の整数。2 、3、5、7、11、13 …など無限にあることが知られている
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対数 たいすう 複雑な掛け算や割り算の値を、足し算と引き算でざっと求めるための工夫
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代数 だいすう 「代数学」の略。数の代わりに文字を用い、計算の法則や方程式の解法などを研究する数学の一分野
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定理 ていり 公理に基づき、論証によって証明された命題。例:ピュタゴラスの定理
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内角 ないかく 多角形の内側にある角のこと
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π ぱい 円周率のこと。直径 1 の円周の長さ。3.141519…
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背理法 はいりほう ある命題が誤りであると仮定して推論を続けると、矛盾した結論が生じる時、もとの命題は正しいとする証明法
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筆算 ひっさん 暗算が難しい複雑な計算を、紙に書きながら解く手法
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複素数 ふくそすう 実数と虚数とで構成されている数。実数 a、b と虚数単位 i を用いて a + bi の形で表される
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双子素数 ふたごそすう 3 と 5、17と19のように、隣り合う奇数がともに素数である組みのこと。ほかに、いとこ素数、三つ子素数、四つ子素数、セクシー素数などもある
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不定方程式 ふていほうていしき 未知数の個数より方程式の個数が少なく、その解が一つに定まらないような方程式
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分数 ぶんすう 整数 a を 0 ではない整数 b で割った結果を a/b で表したもの。横棒の下にある数を分母、横棒の上にある数を分子という
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平方根 へいほうこん 2 乗すると a になる数を、a の平方根と呼ぶ
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無理数 むりすう 分数で表せない数。例えばπ(円周率)
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命題 めいだい 判断を言語的に表現したもの。論理学では真偽を問いうる有意味な文をさす
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メルセンヌ素数 めるせんぬそすう 2 の累乗から 1 を引いた形で表される素数
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約数 やくすう ある整数を割り切ることのできる整数
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友愛数 ゆうあいすう 異なる 2 つの自然数の組みで、自分自身を除いた約数の和が互いに他方と等しくなるような数。例えば、220と284
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有理数 ゆうりすう 分数で表せる数
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量子力学 りょうしりきがく 素粒子、原子、分子など極めて小さなミクロの世界の物理法則を記述する学問
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ルート るーと 平方根のこと。√記号で表す
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累乗 るいじょう 同じ数を繰り返し掛け合わせること
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類体論 るいたいろん 代数的整数論の一分野。ヒルベルトによって導入された類体の概念を、高木貞治が拡張した
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和算 わさん 日本古来の数学。特に江戸時代、関孝和の流れをくむ関流の数学が画期的な発展を示した