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時には4月に雪が降る

全否定か部分否定か

MC Ganta

​​ 「Sometimes It Snows In April」は、1986年に発表されたプリンスのアルバム『Parade』の掉尾を飾る名曲です。

 大学生の時に初めて聴いて以来、私は折に触れて、この曲の歌詞について考えてきました。具体的には、曲の終わり、歌詞の最後の部分です。

 

 Sometimes it snows in April
 Sometimes I feel so bad, so bad
 Sometimes I wish that life was never ending
 But all good things, they say, never last
 And love, it isn't love until it's past

 大学を卒業し、そのうち仕事で英語を使うようになった私は、上の歌詞の4行目「But all good things, they say, never last」は、果たして全否定の文なのか、それとも部分否定の文なのか、と悩んできたのです。

 

 今も悩んでいます。

 Allという語を、否定文において使う時、それが全否定であるのか、それとも部分否定であるのか、なかなか判断しにくくなる場合があります。この4行目も、まさにそうした曖昧な文章になっていると思います。

 「Sometimes It Snows In April」はとても静かで美しく、根強い人気のある曲です。また、プリンスが死亡したのも同じ4月であったことから、ファンの中には、その歌詞を自ら和訳してネットで公開していらっしゃる方々がいます。

 そうした和訳を見る限り、皆さん、この文章を全否定の文として捉えておられるようです。全否定の文だと考えれば、これは、次のように訳せます。

 「でも、すべての良いことは、永遠に続きはしない、と彼らは言う」(つまり、良いことはすべて必ず終わる)

 しかし私は、これを部分否定の文だと思いたいのです。部分否定だとしたら、次のように訳せます。

 「でも、良いことのすべてが、永遠に続くわけではないのだ、と彼らは言う」(つまり、良いことの中には、ずっと続くものもある)

 なぜ私は部分否定の文だと考えたいのか。それはもしかすると、私の中に「終わることなくずっと続いていく良いことも、きっとあるはずだ」と信じたい気持ちがあるからなのかもしれません。

 そして、熱心なクリスチャンであったと言われるプリンスは、おそらく死後の世界を信じていたはずであり、そんな人が「どんなに善良なものもいずれ必ず終わる」と考えていたはずはない、と思うからでもあります。

 

 とはいえ、この文章が全否定なのか部分否定なのか、それは誰にも決められず、言い換えれば、おのおのの解釈にまかされているように思います。

 

 判断の難しいこの文章に続くのが、この曲の締めくくり、つまりはアルバム『Parade』の締めくくりともなる次の一節です。

 And love, it isn't love until it's past

​ 文法的に考えれば、この一節は、前の文章と切り離された単独の文章ではなく、前の文章の一部なのではないかと思われます。つまり、この最後の一節もまた「彼らが言っている(they say)」ことなのではないでしょうか。

 But all good things, they say, never last, and love, it isn't love until it's past

 ここで歌われているのは、次のようなことだと、私は解釈します。

 

 ♪♪だけど彼らはこう言う。良いことのすべてが永遠に続くわけではないのだと。つまり、良いことのなかには、いつかは終わりを迎えるものだってあるのだと。だから愛だって、いずれは終わってしまうものなのかもしれない。けれど、彼らはまた、こうも言っている。愛というものは、終わりを迎えるまでは、決して愛ではないのだと。愛というものは、過ぎ去って初めて、愛になるのだと♪♪

 

 最後に、冒頭に引用した部分を、私なりに訳してみます。

 Sometimes it snows in April

 Sometimes I feel so bad, so bad

 Sometimes I wish that life was never ending

 But all good things, they say, never last

 And love, it isn't love until it's past

 4月に雪が降ることもある

 それはそれはひどく落ち込む時もある

 命に終わりがなければいいのにと思う時もある

 でも人々は言う、良いことのすべてがいつまでも続くわけではないのだと

 そして愛は、過ぎ去って初めて、愛になるのだと
 

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